シンプル・ライス:珍来 [転載記事]
(2010-03-17掲載)
「シンプル・ライス」
皆さん聞き覚えが無いと思う。当然の話だ、身内あるいはごく限られた知人にしか通用しない料理名である。勿論、珍来さんの御品書きにも載っていない。
見ての通り、餃子ライスのことだ。月末、金欠状態に陥った折、何がなんでも腹一杯にしたい時のお助けメニューである。
餃子:350円+ライス(おかわり自由):200円=550円で、死ぬほど食えた! 食えたと言うのは誤りだろう、今でも覚悟を決めれば食える。だが、パス・・・午後の仕事に支障が出るからだ。
以前も紹介したが、ここの餃子かなりヘビーに見えないか、事実ヘビーなのだが。
三十代の頃、最初の三個で大盛り御飯を食べ、残りの2個でおかわり(普通盛り)を頂く。これがマイ・マナーだった。あわよくば、夜飯さえ抜こうかの勢いで胃袋に押し込んでいた姿は、若さの証だろう。今となっては普通の量でも四苦八苦だ。
このシンプル・ライスを注文するたびに、あの日の出来事が思い出される。ずいぶんと古く、今や覚えている人も少なくなったであろう、まだ先代(珍来さんの)が御存命の頃の話である。
当時先代は、昼時になると八潮ドライブイン店に訪れ、自ら入口近くにお立ちになって来客に挨拶をされてもいたものだ。客足が途切れると、店隅の指定席に座られ、孫弟子・曾孫弟子の調理を嗜んでおられた。
いつものように私は金欠、シンプル・ライスを注文し、出来あがるのを待っていた。その時、奥の座敷に座っていた学生服の一人が、たばこの自販機に近づき、コインを投入した瞬間、先代が口を開いた。
「君は、高校生だろう?じゃあ、ダメだ。よその店は知らないが、うちじゃダメだ!」
穏やかだが、きっぱりとした口調に、
「はいっ・・・」とだけ答え、少年は自席に戻って行った。
それだけの話。
テレビドラマであったなら、鼻で笑いそうなシーンなのだが、現場に居合わせた私は、深い感銘を受けた。
当の先代、この時は少年を諭しているのだが、さりとて人の子。それなりの悪戯(いたずら)はなさっていた筈だ。とある日曜の朝、浅草の某所で出くわした。眼と眼があい、会釈をしたのだが、照れくさそうに通り過ぎて行かれた。
その旨を古株の店員さんに告げると、「お店の中では内緒にして下さいね!」と堅く念を押された。「まあ、いいじゃねぇーか少しくらい・・・」と喉まで出かかったのだが、いろいろと事情もあるのだろう、その件は今日まで封印している。
確か先代は二代目だったと伺っている。初代が興した生業(なりわい)を、組織として社会的に立ち上げたとのこと。よく「二代目で会社を潰す」陰口をたたかれるが、世間の期待を裏切った希(まれ)なケースと言えるのだろう。そして、今に残した一番の功績は従業員の独立システムを確立したことに有る。やる気と能力そして我慢があれば将来自分の店を持てる制度だ。単なる暖簾分けに留まらず、自立した者達がグループを作り、新たに独立を夢見る若者を支援するシステムだと聞かされた。
数か月あるいは数週間の研修で起業させてしまう「お手軽簡単フランチャイズ」がもてはやされる御時世にあって、あえて正攻法での修業の場を提供し続ける企業努力は称賛に値する。
今年もまた、春を迎えた。夢多き若者が入門するはずである。人の親として、より多くの夢が叶うことを、願ってやまない。
今は「黄泉の国の住人」となられた先代も、おそらく同じ思いだろう。
私も程なく、そちらにお邪魔する。その時は、独特のお声と言い回しで、
「いらっしゃい!」
と出迎えて頂ければ幸いだ。
(2010-03-17:総閲覧回数575)
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編集後記
転職してから、珍来:八潮ドライブイン店さんには数えるほどしか行けていない。
それでも顔を出すと、馴染みの店員さんが声を掛けて下さる、有り難いことだ。
この記事を投稿する時、プライバシーの問題を考慮し珍来本社に許可を願い出たのだが、快く許して頂き、感謝したことを覚えている。
この珍来さん、普通のラーメン店ではあるが、所謂『変わらぬ姿勢と味』が私を引きつける。
歳をとってしまったのかな、と思う今日この頃でもある・・・
うーん、まだ食えるかなこれくらいならー(^_^;)
by pn (2014-07-25 06:27)
この餃子だけでも充分なような気がしますよ
なんか弱気だけど大丈夫?
着いたら即 一緒に一晩中歓迎会
バカスカ飲むよ 大丈夫?
by パウロ (2014-07-26 03:16)
餃子は食べられるけど、ご飯は半分でいいかな。ゆで卵がきつそう・・・
by HOTCOOL (2014-07-26 05:26)