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終焉 [エッセイ]

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2010年03月31日付けの新聞広告、

 
1世紀を超えて人々を照らしてきた一つの灯りが、
その役目を終えたのである

胸に迫るものがあり今まで保存していたのだが
久しぶりに拡げてみると現在の心境と相俟って感極まってくる・・・

 
全ての事象に終わりはやって来る、

 
そして業界内における私の技術者としての役目は、
どうやら終焉を迎えたようだ・・・




 
私の勤め先は金属表面処理業であり、
無電解ニッケルメッキ部門とアルミニウムの陽極酸化部門に分かれている。

 
私はアルミニウムの陽極酸化部門が担当である。

 
売り上げの多く(80%)は無電解ニッケルメッキ部門が占めているが、
これは弊社がメッキ専門業者であり、アルミニウムの陽極酸化部門は
私が入社したとき(2012-10-01)から本格的な活動が始まったので、
当然と言えたし、向上させる自信もあった。

 
しかしながら一年を経過した今、
その目論見は夢と消え去った・・・


 
話しをわかり易くするために無電解ニッケルメッキをラーメン屋、
アルミニウムの陽極酸化を蕎麦屋と置き換えて説明しよう。

 
私が昨年まで勤めていた蕎麦屋は老舗と言って良い専門店で、
そば粉はもとより、全ての食材が国産であった。

 
味への拘りは他店を圧倒し、同業者をしてそのクオリティーの高さに
驚愕したものだった。

 
価格もせいろ1枚が1,500円、
天せいろに至っては、3,000円以上といった塩梅である。

当然のように客筋も一流・・・

 
花板だった私は客の気心が知れるとと
時として裏メニューなども振る舞った。

 
その結果、客の評判が別の客を呼ぶと言った状況に至った訳だ

 
そんな優良店舗をどん底に突き落としたのが、超バカ二代目・・・
良くある話しである。

 
新規事業とか言ってペテン師軍団に取り巻かれ
札束を億単位でばらまきやがった・・・それも一度ならず二度までも

 
追い打ちをかけるように、リーマンショックそして先の震災

 
内部留保がゼロなんだから、堪えようがない・・

 
職人が一人去りまた一人と、
店の中は火が消えたように静まりかえる

 
優良顧客も経営の不安定さに嫌気が差し
徐々に離れていった・・・

 
ちょうどそんな時期に、今のラーメン屋から声が掛かった
「蕎麦も出したいんだけど、手伝ってくれるかい?」

店を観に行って、すぐに思ったよ
『ラーメン屋の発想で作った蕎麦コーナーだな、それも立ち喰いの・・・』
  

これじゃ、絶対に優良顧客は望めない・・・
「これじゃダメだよ、俺には立ち喰いは出来ない・・・」
そう言う私に

「将来的には何とかするから」
とラーメン屋の三代目は言った

 
そして14ヶ月

 
メニューは240円のかけ蕎麦、
天ぷら蕎麦360円と、立ち食い蕎麦屋のままである。

 
私は黙々と何も考えずに、ひたすらかけ丼を出し続ける・・・

 
こんなモノ蕎麦で有ろうハズもなく、調理でも料理でもない・・・

 
退屈な単純作業

 
客も客で味は兎も角、早く出せと言うばかり

 

 
そりゃそうだよね、袋に入ったゆで麺を使っているんだもの、
コシもへったくれも有ったモンじゃ無い。

 
 
ハラが減ったから喰ってるだけで
別にコンビニでも良いんだよ

 
そして最悪なのはラーメン部門である、
真のプロが一人もいない・・・

 
これはショックだったよ、さすがにね・・・

 
経験年数は別にして、
何するとどうなるって事が分かっていない

 
「これじゃ、マルちゃん正麺の方がマシでしょ!」
って状況が多発する・・・

 
勿論、黙っていたわけじゃ無い、
店舗改装について何度か話し合ってもみた・・・
(ラーメン部門は完全に無視したけど)

 
日銭が入る事で満足してしまった三代目は
「改装資金がない」
と応えるばかり・・・

 
台所事情は、真っ赤っか
自転車操業の最たるものだ

 
薄利多売と良く言うが、ここの場合
多売のみで利は限りなくゼロかマイナス状態

 
当然だろう、
旨くも何ともない代物にまともな対価を払うバカは居ない

 
経営そのものもド素人級
未だに部門別の売り上げすら把握出来ないどんぶり君

 
経営コンサルタントが入っていながらである
(この中小企業診断士は超無能)

 
そして面倒臭くなった私は、一つの答えに辿り着いた
 
「年金貰うまでの腰掛けで良いや!」
それまで潰れるなと心で呟いている・・・

 
65歳まであと九年・・・

 
1日三時間の通勤は痛勤だが、
まぁ、あっという間に過ぎ去るような気がするよ、はははっ!

 


 
 
我々表面処理業は製造業のランク付けで言えば最下層の業界だ・・・

 
しかしながら私には技術者としての自負があり
また、顧客であった上場企業の方々も、私に敬意を払って下さっていた。

 
時として
「貴方に出逢えて良かった!」
とまで言って下さった超大手の技術者の方も居た・・・

 
 
 
そして期待に応えるべく、
あの震災時にも全力でライン維持に努めたものだ。

 
しかし今の立ち食い蕎麦屋の店員じゃ
プライドもへったくれも有ったモンじゃ無い・・・

昔の馴染みにゃ合わせる顔が御座いませんって話しだね。

 
さて、ここまで読んで下さった方々の多くは
「何で自分で起業しないの?」
って思われたんじゃ無いのかな・・・

 
 
やろうと思ってましたよ15年位前にね
顧客のリクエストもあったし・・・

 
でもね出来ないんですよ、この業種は・・・
新規参入は役所が許可しないんです

 
あなた方も嫌でしょ?
隣近所にメッキ屋(シアン・クロム)が出来たら


 
役所はトラブル(公害産業)を抱えたくないんです

 
だからバカ経営者でも
既得権益で潰れずに済んでいるんですよ
競合が少ないですからね・・・

 

 
さてさて、そんな訳で仕事にかけていた情熱を
何に振り向けるのか?

 
もう一度プロを目指してみますかね、
来年は午年でもあるし・・・ふふふっ!

タグ:失意
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コメント 5

ソニーフリーク

良い腕をお持ちなのに、それが発揮出来ないのは残念です。
そして経営者に職人気質が無い事もガッカリです。
日本の物作りの火を消さないで欲しい。
最初の会社が廃業したら、凶状持ちさんが居抜きで
買い取るなら役所も許すのでは?
人生何が起こるか分かりませんよ。

by ソニーフリーク (2013-12-30 08:38) 

m1935gp

掃除屋になって10年になったのかな?確かに振り向けばあっという間だったよ。
馬も良いけどさ、情熱の炎がまだあるのなら、何でもいいから作り続けようよ。
by m1935gp (2013-12-30 21:19) 

HOTCOOL


匿名は面倒だから(笑)
ウチの会社もバブル崩壊以降、人を切捨て、業者さんに無理難題を押し付けたせいで、今になって、技術者がいない、職人さんがいないで、東京オリンピックまでの7年間をどう乗り切るか悩んでいます。
銀行の顔色ばかり伺う経営ではなくて、やはり”経営は人なり”だと感じています。
ソニーフリークさんのおっしゃるとおり、経営権を買い取るかして、物造りの火を消さないでもらいたいです。

by HOTCOOL (2013-12-31 08:04) 

パウロ

業界が狭いようですが
バレないように他にもいつも口を掛けて
 おくべきですね
by パウロ (2014-01-01 05:06) 

裏星人

今年は午をペガサスにしましょう!
by 裏星人 (2014-01-01 05:08) 

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